「まぁ、綺麗だわいなぁ」

ゴンゾが出先から持ち帰ってきた指輪を陽の光にかざして、ヒノデロはうっとりと言う。

小さい女の子向けの玩具の指輪だったが、命失くしてからも経験していた時代が時代だっただけに、物珍しい硝子でできた石の輝きに心惹かれるのだろう。

ゴンゾにはちっとも良さがわからない。そんなものを見ていたところで腹は膨れないと、欠伸をひとつ。

「今の子供達は、こんな素敵なものが簡単に手に入って幸せだなっす」

かざした指輪の向きを変え、中の輝きを楽しむ。

そういえば少し前にも(といってもそれは彼らの感覚の話であって、実際には30年も前にさかのぼる)、どこぞの家の子供の宝物入れとやらに入っていた透明のビー玉をヒノデロは気に入っていたらしく、夜になればそのビー玉を見にその子供の家まで通っていたことがあった。

ゴンゾは思い出して、ふと思い立った。

「ヒノデロ、それ気に入ったか」

「とても綺麗。あたい、こういうの好きだわいな」

「じゃあやる」

その言葉に喜んでくれるものとばかり思っていたが、ヒノデロは困ったように笑うばかりだった。遠慮がちなその表情に、ゴンゾはなんだよ、と口を尖らせる。

「でも…拾い物なんでしょう?持ち主が探してるかもしれないわぇ、ゴンゾ兄さん」

「拾いもんじゃねぇ。同じの持ってる言うて捨ててったもん持ってきたんだ。だから返す必要もねぇよ!」

言いながら乱暴にヒノデロの手をとると、指輪をはめようと不器用なゴンゾの手がもたもたと動く。

「ほら、どこにつけるもんだか知らねぇけどよ、ここでどうだ」

適当にはめやすそうな中指を選んで、指輪を押し込む。

ほっそりした白い中指に、誂えたかのようにぴたりとはまる指輪を見て、それまで困惑半分だったヒノデロにも笑顔が戻る。

その少女のような笑みに、ゴンゾは顔が火照るのを感じた。

「お、おなごみてぇなお前にはちょうどええ!」

「ありがとう、ゴンゾ兄さん。大切にするわいなぁ」

照れ隠しに荒げられた声に、気付いてすらいないであろうヒノデロは、はめられた指輪を大事そうに一撫でしてゴンゾに寄り添う。

その仕草に、ゴンゾの顔はさらに赤みを増す。

(落ち着け。こったら事初めてじゃねぇし、ヒノデロにはこの距離が普通で意味など、深い意味など、ねぇ。だから、だから)

 

落ち着け、と思うそばから誘惑される。

ヒノデロから香るもので、頭がくらくらする。

苦手なあの匂いがゴンゾの鼻をくすぐっては、意識にまで侵略してくる。

 

俺の嫌いな、あの香り。嫌いなはずの、あの。







白粉の匂いが、する   2009.04.12


初ゴンゾ×ヒノデロ。少しばかり妄想がいきすぎましたゴメンナサイ。
ゴンゾはヒノデロが可愛くて可愛くて仕方ないんだと思う。
私もそうだからわかるよゴンゾ。ファイト!